王の間、そこにこの街を治める女王はいた。
自分が最も信頼をおいているミルハウストが目の前で傷付いているのを見ながら何も出来ない自分を歯痒く思っていた。




「ミルハウスト!!」
「陛下…っ!!なりません…!!お逃げください…!」



剣を支えにようやく立っている状態のミルハウストを置いて逃げる事など彼女には出来なかった。
痛みに苦しみ、膝をつく彼に駆け寄る。






「フッ、大したことないな。王の薔薇と言われた騎士団の隊長がこんなものだとは」



髭を弄りながらつまらなそうに呟く男、その背後には人が乗れるような機械。
この機械により魔物が呼び集められていたのだ。
そしてミルハウストは男が操作するこの機械によって苦戦を強いられていた。



「敬愛する陛下と共にあの世を送ってやる。私からの最後の慈悲だ」




男が手を上げると、魔物が唸り声を上げながらミルハウスト達にじりじりと近寄ってくる。



最早これまでか…とミルハウストは女王であるアガーテを抱き締め身構えた。














・・・・せめて、陛下だけでも・・・・・・!!!





















「レイ!!」
「サイクロン!」





魔物の群れに光が降り注ぎ、嵐が吹き荒れた。
自分達には当たらず敵だけを狙った攻撃、これは味方が来たと考えて良いのだろうかとミルハウストは目を開けた。






「何者だ!!」











「そこまでよ」

「大人しく投降してくれれば命だけは見逃してあげてもいいですよ?」

「けれどそれ以上悪あがきを続けようって言うなら…」

「オレ達はお前を力尽くで止めさせて貰う!」





リフィルは素早く呪文を唱えるとミルハウストに治癒術をかける。
痛みがとれたミルハウストは再び立ち上がり剣を構えた。



達とミルハウストに挟まれるように立っている男は、一見すると絶望的なこの状態で笑い出した。





「クックック…フハハハハハ…ハッハッハ!!」

「!」








「来ると思っていたぞ。我等の邪魔をする愚かな同胞」
「……」


嫌な目つきで自分を見る男には眉間を寄せた。




「我が名はオズバルド。愚かな人間達よ、我々に従え。でなければ、この国だけでなく世界そのものが消えることになるぞ」

「そんなこといきなり言われて誰が信用するって言うのかな?アンタ風情に何が出来るって言うのさ」

「そのような口を聞いていられるのも今のうちだけよ。後で己の無力を嘆きながら後悔するんだな」







「五月蝿いっ!さっさと魔物を連れて出て行け!」
「…力尽くでどかせてみたら、どうかね?」





オズバルドが機体に乗り込む。
機動音の後、重々しい鉄の塊が達に向かって攻撃を仕掛けてきた。




「気をつけてください!かなりの攻撃力ですよ!」

「接近戦では駄目ね。術をかけるから援護をお願い!」




魔術を扱えるリフィルとサレが詠唱を始める。
その間とジェイは撹乱作戦の為前に出るが、モンスターも邪魔してきてオズバルドの所に中々辿り着けない。
しかもオズバルドの乗った機械は背中からプロペラを出し、空まで飛び出した。



「なっ!!!」
「っ詠唱が出来ない!!」



詠唱中で無防備だった二人に鉄の腕が襲い掛かる。
直撃を避ける為にやむなく、二人は魔術を高めるのをやめてその場を飛びのいた。






「きゃあっ!!!」


「!!?リフィルさんっ!?」




避けた筈のリフィルの悲鳴が聞こえ、はそちらへ振り向いた。
なんと、いつの間にかモンスターの群れがリフィル達後衛と達前衛を隔てるように取り囲んでいたのだ。




「卑怯なっ……!!!」
「フハハハハ勝てば良いのだ!勝てばな!!!」




絶対絶命か、誰もがそう思うようなこの状況。
































だが、だけが笑みを零した。


























「な、何がおかしい?!」

「アンタのその自信満々な顔がもうすぐ絶望に変わるからかな?」

「…戯言を!!!もういい!やってしまえ、お前達!!」














ドゴン!!!!














「なっ!?」



「ああ、そうでしたね」

「彼女の存在を懸念していたわ」

「…また城を壊されちゃったねえ」







玉座の間の壁をぶち破って入ってきたのは、オズバルドの機械よりも小さなもの。
けれど数はモンスターと同じくらいいる。





「ぐっふっふっふ〜〜〜♪これこそ、天才ハロルド博士の大発明!

 カカシオールスターズ!!!さあ、行きなさい!可愛いカカシちゃん達!」




高らかに天を指し、自信満々な顔で叫ぶハロルド。
彼女の腰くらいしかない小さなロボット達、けれど破壊力はその外見には似つかわしくないもの。





「ほら、ね」


オズバルドがハロルドに集中している隙を逃すわけもなく、が斬り込んで行った。



「虎牙破斬!!!」

「ぬおっ!!!」




まずはプロペラを斬りおとし、重い機体を地に落とす。
ずぅんと床を振動させて落ちた機体の中にいるオズバルドは物凄い重圧がかかっているだろう。





「モンスター共は私に任せて、あんた等はあっちのデカイのに集中しなさい!!」

「サンキュッ、ハロルド!!サレ、いっちょデカイのかまして!!」
「高くつくよ。…………
唸れ烈風。大気の刃よ、切り刻め!タービュランス!!!



モンスター達を一掃する嵐を巻き起こり、邪魔するものが無くなった。

そこへとジェイが飛び込む。






「翔翼っ!」
「魔神……双破斬!!」




「ぐあああああああっ!!!」




「まだよっ!……
命を糧とし 彼の者を打ち砕け!セイクリッドシャイン!!



リフィルの最大法術がオズバルドに降り注ぐ。





「うぐああああっ!」




最後にが剣を構えると、腕輪のヴォルトの石が眩い光を放ちだした。



 
我の力を感じろ、そして願え
   【●×△★♪】





「…腕輪に宿りし、紫電の使徒よ。雷光の力、我が剣に与えよ!……
雷臥登竜閃!!!





剣が稲妻のような軌跡を描き、オズバルドの乗った機体へと振り下ろされた。






「ぐあっ……あが…。ミクトラン様…申し訳…ありませ…ぐふ」






黒こげになった機体から降りてきたオズバルドは、クヴァルの時同様粒子になって消えて行った。
その光景をあまり見たくないと、は目を逸らす。
その時のの様子の変化に気付いたのはジェイとハロルドだけだった。








「陛下、もう大丈夫ですよ。ミルハウスト、君もよく頑張ったよ」
「サレ……すまない。ありがとう」





「サレ、この方たちはどなた?」



この時初めて達は女王陛下の顔を見た。




ふんわりとしたドレスに身を包んだその人の頭には大きな猫耳。
ドレスの裾から除く尻尾。


“ガジュマ”である、アガーテ・リンドブルム女王陛下。






「御前を失礼します、女王陛下」

リフィルが大人の態度で接すると女王は首を横に振った。




「貴方方は私を、そしてこの国を救ってくれた恩人。そのように畏まる必要などありません。楽に話してくださって構いませんわ」


美しい笑顔で穏やかに言われれば、心の何処かに圧し掛かっていたプレッシャーが消えた気がした。




「王の心の広さには感服しますよ。此方がこの国の王、アガーテ様だよ。アガーテ様、彼等はこの国に私用で立ち寄った旅人です。
 
 どうやらハロルド博士の知り合いだったみたいだね」

「エヴァの大佐のツテでね。それより、どうよ?私の新作。兵が不在時にかなり役立つと思わない??」

「確かに凄い破壊力ではあった……が、制御はきくんだろうな?」

「いやあねえ。まだ前のこと根に持ってるの?」

「前に貴殿が持ってきた“HRX−2型”は数時間もせん内に暴走を起こし、止めるのに一個小隊がかりだされたからな」



ミルハウストは遠い目をして呟いた。
どうやら過去にハロルドの発明で一度痛い目を見ているらしい。



「さて、と…それじゃあ私はカカシちゃん達の整備に戻るわ。試運転はどうやら大成功みたいだし♪

 ミルハウスト、達よろしくね。きっとかなり疲れてるだろうから」

「了解した。それでは陛下、我等はまず城の片付けを致します。その間、彼等と話などなさってはいかがでしょう?」

「まあ、それはよい考えですわね。では空中庭園でお茶に致しましょう」



























美しい花々が咲き乱れる空中庭園の一角、其処は和やかな雰囲気に包まれていた。

女王であるアガーテは達が旅人だと聞くと、外の世界の様子等の話に楽しく耳を傾けている。
幼い頃から王になるべく育てられた彼女にとって、広い外の世界の話はとても新鮮なものらしい。



「私今回の事で思いましたの。…私はまだ民全てに認められた女王ではないと」

「アガーテ様……」

「お父様の跡を継いだけれど…やはり駄目ね。ガジュマである身を偶に疎ましく思うの」



自分の手の平を見つめて悲しげに笑うアガーテ。
ヒューマとは違う手・体・耳……それら全てが彼女の枷になっている。

リフィルは眉間を寄せ、机の下で手の平を握り締めた。
彼女は一番アガーテの気持ちが解る。
差別される悲しみ、認められない悔しさを彼女もまた味わってきたから。





「違うっ!」




の大声が庭園に響いた。






「生まれなんて関係無いっ!大事なのはその人がどういう人なのかってことだよ! …受け売りの言葉だけど…。
 

 でも、アガーテ様が民の事を思ってるのは街を歩いてみて解った!



  皆……笑ってたよ」







治世がしっかりしてなきゃ、あんなに皆が楽しく暮らせる筈がない。
この街に来たばかりの旅人にも解るんだから、それは本物だ。




………。……ありがとう。私、その言葉が一番嬉しいわ。女王として務めを果たせていると、そう思って良いのね」
「勿論だよ。ガジュマとかヒューマとか、そうじゃないんだ。アガーテ様は、アガーテ様って言う“ヒト”なんだから」




が生まれてから一番培われてきたもの、それは存在意義。
自分の出生が周りと違う事を知り、世界には色々な種族がいることを知り、その中で生きていく事の大切さ。



「……。今だけは…私を“女王”ではなく、一人の“アガーテ”と見てくださいな。私も貴方も同じ…“ヒト”なのですから」

「…アガーテ様…いや…。わかったよ、アガーテ」

「…ありがとう」